道ゆく先々での、木々草々花々などさまざまの出会いとその後を、一筆箋に綴るつもりで。
From the Wayside: about my acquaintances of trees, flowers, weeds and others (written in Japanese)
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2018年9月28日
道の記
クワクサが石塀の下に並んでいた。私が住む町ではクワクサをあまり見ないが、この町はクワクサ人口が多いようだ。うれしくなって写真を撮った。クワクサは終始しずかにしていた。
町は祭りの日だった。演舞台のまわりは人と屋台とでにぎわっていた。広場の隅でこどもたちがエノコログサやメヒシバとじゃれあっていた。
その町を訪ねたのはたぶん10年ぶりぐらい。以前立ち寄った場所に行ってみた。清水が流れる水路のそばが遊歩道になっていて、そのところどころに河童の像がいる。河童はそれぞれ思い思いの格好でそのときを楽しんでいた。祭りから帰ってくるこどもたちとすれ違い、これから祭りへ向かうこどもたちが向こう岸の道を駆けていった。
* * *
水路の辺の古いお宅が取り壊されている途中だった。まだ形が残っている裏手にまわると、土壁が半ば崩れて穴が開いていた。その壁を蔦が昇っていた。いろいろ思いながらその場を後にして水路の橋に差し掛かると、その家の敷地の枇杷の木が枝を水路へと迫り出していた。
雨になったが、めったに来ない町にせっかく来たので隣りの駅まで歩くことにした。道は長かった。なにか食べておけばよかった。日暮れも近づき、帰りはその隣り駅から列車に乗ろうと思った。小さな駅はご近所の方が管理している様子だったがもう窓口のカーテンが閉まっていた。時刻表を見ると私が思っていた時刻に列車がなく、1時間ほど間が空いていた。これはだめだ、と声が出た。窓口のカーテンの向こうに灯りが点いているのにその後で気付いた。
帰り道も長かった。向こうのほうだけ雲が薄くなったようで、地平線の上が赤く染まっていた。
* * *
その町へ通う最後の日に、道を変えて川沿いを歩いた。大水のときには恐ろしかったことだろうが、朝の小川は美しかった。曲がらなければいけない角を忘れて1つ先まで歩いてしまった。
初日に来たときに、駅前の道沿いで大きなクスノキを見かけた。むかしながらの工場の敷地ぎりぎりに立っている。その景色に見覚えがあって、ああこの町に自分はむかしたしかに来たのだと思ったのだった。最終日の空はこれまでになく晴れていて、クスノキもいっそうりんと立っていた。あいさつをして駅へ向かった。