ある喫茶店の前の歩道の、その縁石の脇に松の木の幼木がいた。
まだその木がだいぶ小さな頃から気に掛けて見ていたが、縁石より大きくなった頃から、松の木はひもで支持されるようになった。たぶんその喫茶店の方か、近くの方がなさっていたのだろうと思う。
少し前、その喫茶店が無くなった。道路拡張で立ち退きとなったらしい。松の木はお店が閉じられた後もひもで結わえられたままそこにいた。
その喫茶店の建物が取り壊されて、更地になった。松の木がいた場所のあたりは、その取り壊しに伴ってか、縁石が撤去されて舗装し直されていた。松の木はいなくなった。
道にはたくさんの車が行き交うけれど、その場所はがらんとしてしまった。喫茶店もさまざまな方に親しまれていたお店だった。松の木も、歩道の脇で、どなたかの心に宿りながらたしかに、ひとときを生きた。
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