まもなく閉鎖される大学キャンパスを訪ねた。解体工事の方々や学生の方々のほかに、少しお歳の方の姿をちらちら見かけた。古い木々が残っている一帯にツルボがたくさん咲いていた。キャンパスの外では見かけない。残されてほしいと思った。花の穂が風にふわっと揺れた。
私がいつも通っていた廊下の窓から見えていた、大きな木のところへ行った。完全に枯れていて、治療のためだったのか枝もかなり落とされていて、樹種はわからなかった。樹皮に触れると熱かった。この暑さや寒さをずっと耐えていたのだと思った。高い所に残された枝の先に、とんぼがとまっていた。
火事の現場一帯は立入禁止のテープが貼られたままになっていた。その立入禁止範囲の外の一所に、手向け花と缶の飲み物がたくさん置かれていた。テープに囲まれた中に噴水の池があり、現役の学生らしき若い方々がやってきて、テープの外から、亀はどうしただろうと池のほうを見ておられた。
建物の屋上からよくまわりの景色を眺めていた。思えばそういうときはたいていひとりだった。建物の端から真下の桜の花姿を見下ろしたりもした。きょうその桜を下から見上げて、はじめてはっきりと悲しさを感じた。桜はいつもどおりの秋を迎えていた。
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その木々草々をもういちど訪ねて挨拶をした。別れといってもひとときのことのような気がした。